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パワーリフティングジムの開業、お気に入りの高品質なラックやバーベルに囲まれ、仲間たちと理想のトレーニング環境を作り上げる——パワーリフターにとって、その魅力は計り知れません。
しかし、夢を現実にする道のりには、ニッチなパワーリフティング専門ジムならではの集客の難しさや、騒音や振動の対策など、乗り越えるべき壁がいくつも待ち受けています。
このブログでは、私(店長神野)が会社員を続けながら副業でパワーリフティングジムをオープンした経験を元に、運営方法について書いていきます、これからパワーリフティングジムを作りたいと考えている方の参考になれば幸いです。
※筆者が会社員をしながら副業でパワーリフティングジムを運営していたのは2017年-2018年頃で、その後はフリーウェイト器具輸入販売事業が本業になっています。
私は2003年頃に愛知県東郷町という場所にあったMBC POWERジム(以後、旧MBCジム)でパワーリフティング競技を開始しました。旧MBCジムはK先生という方が運営されていましたが、騒音問題といった事情により2008年に閉鎖となってしまいました、その後MBC POWERは拠点のジムを持たないパワーリフティングクラブとなり、所属選手も減る一方でした。
そこで、2017年に私がK先生より許可を頂き、MBC POWERジムを復活させる事となりました。ジムを運営するのにも色々な方法があるかと思いますが、私が選んだのは、「会社員を続けながら副業としてパワーリフター向けのコンパクトなジムを運営する」というかたちです。
「パワーリフターが練習できるジムを作りたい!」と考えた時、まず決めておく必要があるのが
の、どちらの道を選ぶかという点です。
(※本稿で言う"一般会員"は、ダイエットや健康維持、ボディメイクといった目的でジムに通う層と定義します)
どうせならパワーリフターだけでなく一般会員も集めたいと考えがちですが、この「一般会員もパワーリフター、どちらにも使いやすいジムにしたい」というのは実際簡単にはいきません。
というのも、パワーリフターを集める場合は「パワーリフターは非常に熱心にジムに通い、ジムの滞在時間も長く、フリーウェイト器具を集中的に長時間使用する」という点を考慮しなければならないからです。
また、パワーリフターは大部分が社会人や大学生の為、練習時間は18時~22時頃に集中します。
私の経験上、ジムの会員に現役のパワーリフターが30人いれば、平日夜のジムには毎日10人前後のパワーリフターが来館すると考える必要があります。
パワーリフターが10人も来れば、パワーラックとベンチ台が2~3台ずつあっても器具はみんな埋まってしまいます、夜のフリーウェイトエリアは機能不全に陥り一般会員は近寄れなくなるでしょう。
パワーリフターは「声をかけてくれれば器具を一緒に使う」と言いますが、一般会員には器具をシェアするような文化はありませんし、そもそもインターバルや扱う重量の全く違うパワーリフターと器具をシェアしたがりません。
つまり、パワーリフターを積極的に集めるという事は、一般会員には使いづらいジムになる、一般のフィットネスクラブとは比べ物にならないくらい少ない会員数でジムのフリーウェイトエリアがキャパオーバーになるということです。
一般向けジムにするならパワーリフターにも一般向けジムとしてのルールとマナーに従わせ、ラックの占領や使用時間を制限する。パワーリフティングジムにするならパワーリフターを中心に集め一般会員にもパワーリフターのルールに従ってもらう。まずこのパワーリフターのルールで運営されるジムか、一般会員のルールで運営されるジムかという方向性をしっかり決めておかなければ、どちらにも使いづらいジムになってしまいます。
パワーリフティングに特化したジムにするのであれば完全にパワーリフターの為のジムとして運営しましょう。利用者はパワーリフターではなくても器具のシェア等パワーリフターのルールに合わせて使ってもらうようにします。
「一般会員とパワーリフターの両方を対象にしたジムとして運営する」という考えについて、残念ながらその方向性で商業的に成功してジムは非常に少ないと感じます。
普通のフィットネスクラブにパワーリフティング用の器具を設置しても中々パワーリフターが満足の行く練習環境にはなりません、それは前述のように一般会員とパワーリフターはジムの使い方やトレーニングの内容、トレーニングに対する考え方まで根本的に異なるからです。パワーリフターが使いやすいジムというのはパワーリフター向けの器具が置いてあるだけでなく、パワーリフターの独特な練習を許容する、パワーリフターの為のルールで運営されているというのが条件になってきます。
しかしフィットネスクラブは圧倒的な多数派で滞在時間も短い一般会員重視にならざるを得ず、パワーリフターの練習はある程度制限しなければ経営に悪影響が出ます。
北米にあるような巨大な倉庫に大量の器具を並べた大型フリーウェイトジムであればそれぞれ自分のペースでお互いを気にせずトレーニングを行えるかもしれませんが、あのような巨大なジムは北米のフィットネス人口の多さ、家賃や器材の安さ、エアコンが不要な乾燥した気候が前提にあり、日本にそのまま持ってくるのは容易ではありません。
それに加え、一般会員も使えるジムにする場合、日本中津々浦々まで増え続ける24Hフィットネスクラブチェーンと競合することになります。競争に打ち勝つには相当大きな資本力やジム経営能力が必要となるでしょう。
そこで私がオススメするのがパワーリフター向けに特化した小さなジムとしてオープンする方法です。パワーリフターという限られた層を対象にする事で、小さな資本で低リスクにスタートができ、既存のフィットネスクラブとの競合も避ける事ができます。このブログではパワーリフター向けに特化したジムを副業として運営する方法について書いていきます。
パワーリフター向けのジムを作る場合、実際に採算がとれるのかという点が大きな問題となります。
ここで陥りがちなのが「利益が出なくても好きだから大丈夫」という考えですが、これは捨てて下さい、1万円でも必ず利益を出すという考えでなければ将来にわたってジムを継続していく事は出来ません。赤字のジムはオーナーが何らかの事情でお金を出せなくなったら終了です。
前述のように、パワーリフティングジムに集まる会員は非常に熱心に練習をします。会員が30人いれば毎晩10人前後は練習に来ると考える必要があります。一般のフィットネスクラブでは重要な収入源となる幽霊会員もいません。
ジムのランニングコストが月15万円とした場合、会費1万円でも最低50人は集まらなければ経営者がそれだけで生活していく事は出来ないでしょう。パワーリフティングジムが50人の会員を集めるのは余程選手人口の多い地域でもなければ極めて困難です。
しかもパワーリフティングジムで50人の会員がいれば平日夜は毎日10~20人程度が練習に来ます、かなり広いテナントに大量の器具がなければパワーリフター20人が同時に練習するのは難しいでしょう。
そこでスタッフ無し・指導無しで運営するという方法が重要になってきます。
未経験者は切り捨てて、選手とトレーニング経験者だけを集める、会費はあくまでもジムの利用料、指導無し、個人指導はパーソナルで別料金とします。そうすれば、
・人件費が不要となり少ない会員数で黒字化できる。
・オーナーも一人の利用者として一緒に練習ができる。
・常駐スタッフ無しで運営が出来るため、オーナーはジム運営とは別に仕事を持てる。本業がトレーナーであれば自分のパワーリフティングジムでもパーソナルのような業務が行えるようになり、会社員であればそちらで福利厚生を受けつつ副業のジム運営で節税も行える。
・管理運営の労力を大幅に低減できる。
・選手とトレーニング経験者中心であれば定着率が高く安定的な運営ができる。
というメリットがあります。
スタッフ不在で運営する場合は事故のリスクを考える必要があります、事故が起きた際の対応については万全を期して下さい。一人で安全にトレーニングの出来ない未成年者や初心者の入会は認めない、セーフティの使用方法や事故があった際の対応については入会時にしっかり説明した上で誓約書に署名捺印を受け、保険に加入するといった備えが必要です。
パワーリフティングジムを作ろうとした時、最大の難関になるのがテナント探しです。私の経験上、パワーリフティングジムに適した物件というのは非常に稀で、100件に1件あるかどうかです。
逆に言えばテナント探しさえ上手く行けばあとは何とかなります、不動産サイトに登録し新規の物件があればこまめにチェックするよう心がけましょう。
パワーリフティングジムを作る場合、テナントは以下の要件を満たしているかが重要となります。
【ある程度の集客が望める場所】
会員を集めるにはやはりある程度の集客が望める場所にテナントを借りる必要があります。
田舎すぎて近隣のパワーリフティング人口が非常に少ない、交通の便が悪すぎる、(地方の場合は)駐車場が無い、近くに既に人気のパワーリフティングジムがある、こういった場所では10人~20人の会員を集めるのも困難になります。
逆に言うと、大都市圏でパワーリフティングジムの少ないエリアは狙い目です、MBC POWERジムも名古屋東部の人口密集地域にパワーリフティング専門ジムが殆どない事情があり現在の場所を選びました。
【家賃が安い】
無理せず集められそうな会員数を予想し、会費収入で家賃・光熱費・駐車場代の合計額がペイできるかよく考えて下さい。月会費10,000円で30人の会員がいるジムを想定するのであれば、会費収入は10,000円×30で30万円、そうなると家賃+駐車場代だけで月25万円を超えるようなテナントでは黒字化するのが難しくなります。
【騒音と振動が問題にならない】
パワーリフティングジムを運営する上で切っても切り離せない問題が騒音です。2008年まで愛知県東郷町にあった旧MBCジムもやはり閉鎖の原因は騒音問題でした。
まず、マンションの1階や、他のテナントも入居する建物は避け、独立したテナントを選ぶのが理想です。
場所も、静かな住宅街は避けた方が良いでしょう、国道沿い、線路沿い、周りに民家が無いといった可能な限り騒音と振動が問題になりにくいテナントを探します。
【内装工事がいらない居抜きの物件を探す】
利益の出にくいパワーリフティングジムでは、初期コストをいかに抑えるかが重要となります。内装工事を行うとそれだけで1000万円を超えるような費用が発生するケースもあります、パワーリフティングジムで開業費用に一千万円を超える費用を使うのは避けたほうが良いでしょう。
そのそも、殆どのパワーリフターは内装は気にしません。パワーリフターが重視するのは練習がしやすく強くなれる環境です。
居抜きの物件であれば、あとは床材と器具を設置するだけでもパワーリフティングジムになります。壁はバナーでも貼ってそれっぽくしておけばOKです。
空き地にプレハブを建てたりコンテナハウスを設置してジムを作る方法もあります、これは元々自分の土地を持っていたり自宅の敷地にジムを作る場合は有力な選択肢となります。
【特殊な競技者向けのジムを作る事について大家・管理会社から承諾を得られる】
後々のトラブルを避けるために競技者向けのジムを作る事、ある程度騒音と振動が発生する事は伝えておく必要があります。
・国道沿いの独立したテナント
交通量の多い国道沿いの独立したテナントであれば騒音や振動が問題になりづらく、自動車でのアクセスもしやすいでしょう。こういったテナントは家賃が高い傾向にある点がネックになります
・住居兼店舗
1階がテナント、2階が住居になったタイプの物件です。不動産サイトでも個人経営の電気屋や商店が閉店して空いた住居兼店舗のテナントをよく見かけます、そういった物件は狙い目です。2階の住居ごと借りてしまえば騒音と振動の問題がある程度解決します。2階に大家が住んでいる場合もありますが、その場合は事前に大家に騒音と振動が発生する旨をしっかり説明し承諾を得る必要があります。
・倉庫や工場
北米でよく見かける倉庫を利用したジム、広い上に工業地帯の倉庫であれば騒音や振動も問題になる可能性は低いです。しかし、天井が高くエアコンが効きにくい、用途変更の手続きをする必要があるといった点には注意が必要です。
エアコンに関しては吊り天井を施工する、用途変更については建築士に相談するといった対応で解決可能な場合もありますが、居抜きの物件と比べると初期費用が予想外に大きくなる可能性もあります。
首尾よく丁度いいテナントを見つける事ができたらあとは中身です、居抜きの物件であればオープン費用の大部分は器材の購入費用となります。
仮にMBCPOWERジムと同じ規模のジムをオープンする場合、必要な費用はおおよそですが下記のようになります。
テナントと駐車場の保証金や仲介手数料といった初期費用 80万円
コンボラック4台 200万円
パワーラック1台 50万円
ハーフラック1台 20万円
ラバープラットフォーム2面 30万円
オリンピックシャフト8本 80万円
プレート1600kg 160万円
看板、備品、床のカーペット等 100万円
合計700万円
これは全て新品器具で作る場合の費用です。MBC POWERジムの場合、元々ホームジム用に買い集めていた器具、旧MBCジムのオーナーより譲り受けた器具、中古で購入できた器具があった為、実際はもっと安価に抑えています。
内装工事を行う場合はこの倍以上かかる可能性もあります。
MBC POWERジムはパワーリフティングジムの中でも比較的器具の多いジムで、すぐに20人~30人以上のパワーリフターが集まる可能性が高いというわけでもないのであれば、最初からこの量の器具を揃える必要はありません。
最初は仲間内の数人で使用し徐々に拡大するという場合はコンボラック1台~2台とプラットフォーム1面からのスタートでも十分だと思います、コンボラックとプラットフォームさえあればそこは立派なパワーリフティングジムです。
器具を中古で探す場合、パワーリフティングジム用の器具類が一般のオークション等に出てくる事は滅多にありませんのでパワーリフティングジムを運営している知り合いに直接尋ねるのがよいでしょう。
資金の調達方法は大きく分けて自己資金と融資の二種類があります。
筆者は自己資金でオープンしました、開業資金に関しては可能な限り自己資金で、大きな借金はせず個人で無理なく準備可能な額で始めるのがオススメです。
融資を受ける場合、銀行や信用金庫、政策金融公庫のような金融機関に融資の申込みを行う事になります。筆者はジム運営とは別件で銀行・信用金庫・政策金融公庫から融資を受けた経験がありますが、起業したばかりの個人事業主であれば政策金融公庫を選択するのが最も現実的です、そして政策金融公庫から融資を受ける際に重要になるのが融資担当者を納得させられる経営計画書を作れるかという点です。
パワーリフティングジムの場合そもそも大きな利益が出るようなものではありませんので金融機関から多額の資金を調達するのは容易ではありませんが、ある程度の会員を集めて利益を出し借金を滞りなく返済していける根拠と具体的な計画を示し、融資担当者が納得できる内容の経営計画書を作りましょう。
パワーリフティングジムに必要なのは、まず何より
バーベル
コンボラック
プラットフォーム
この3つです。これらがなければ話になりません、最も重視するべき部分です。特にバーベルとコンボラックは可能な限り競技用の物で揃えましょう。プラットフォームは自作でも問題ありません。
その次に重視したいのはパワーラックもしくはハーフラックです。ダンベル類やマシン類はスペースに余裕があれば置いてもいいと思いますが、そうでなければ限られたスペースに可能な限りコンボラックとプラットフォームとパワーラック(もしくはハーフラック)を置くべきでしょう。
具体的なトレーニング器具の選び方についてはあまりにも長くなってしまうので本稿では割愛します。
・床材
良いものを選ぶと器具類と同じくらいコストが掛かるのが床材です。これについては下記のような選択肢があります。
【何もしない】
床の施工はせず、器具に下にだけラバータイルやプラットフォームを置く方法です。パワーリフティングジムはこれでも十分です。
【ラバーロール】
フィットネスクラブのように専門業者によるラバーロールの施工を行います。厚みにもよりますが1平米で1万円~2万円程度は費用がかかるでしょう、開業費用に余裕がないのであればもっと安価にできる方法を探します。
【ラバータイル】
タイル型のラバーであれば自分で必要な部分のみに施工できます。費用はやはりラバーの厚みにもよりますが、1平米で1万円~2万円程度となるでしょう。ウレタンのような柔らかい素材が使用された安物はグラグラしてパワーリフティングのトレーニングでは使い物になりませんのでご注意下さい。
【タイルカーペット】
1平米1000円~2000円とかなり安価に床の施工が出来ます、器具の下に敷くには向かない為、器具に下には別途プラットフォームやラバータイルを敷く必要があります。
エアコン無しだと夏場のトレーニングはかなりきつくなります、北海道のような夏でも涼しい地域でなければエアコンは必須に近いです。
シャワーも勿論あった方がよいですが、パワーリフティングジムの場合は必ず無いとならないという程の重要性はないため、施工費用等の問題で設置ができない場合はとりあえず無しスタートしても問題ありません。
副業で小さな規模で運営する場合のメリットとして、節税になるという点があります。
法人or個人事業主
法人もしくは個人事業主として運営する事になります、この2つの税金面での大きな違いは法人はほぼ定率の法人税、個人事業主は累進課税になるという点です。
年間の事業利益が500万円を越えるようであれば、法人化を検討する必要が出てきますが、まずは個人事業主でのスタートをオススメします。
【個人事業主の場合】
個人事業主の場合、ジムを作る前に開業届を出し、確定申告は必ず節税効果の高い青色申告を選択します。
ジムのオープンに伴う数百万円の費用は全て経費として計上します、パワーリフティングジムの売上で専門の経理スタッフや税理士を雇う事は難しい為、経理に関する記録は会計ソフトを導入し自分で入力する必要があります。
開業初年は大きな赤字になるでしょう、高価な器具は固定資産となり数年にわたって減価償却費を計上しますので場合によっては2年目3年目もある程度大きな赤字が発生するかもしれません、この時個人事業主としてしっかり確定申告を行えば赤字と本業の収入を相殺し、その分の税金を節約する事が可能です。
それに加えて、パワーリフティングジムを運営していれば、パワーリフティングとジム運営に関係する出費はかなりの部分が経費での計上が可能になり節税を行えます。
経費の計上については当然何でもかんでも経費に出来るという物でもありません、迷った時はその都度調べるようにして、脱税にならないよう注意しましょう。
メリット
デメリット
マイナースポーツであるパワーリフティングのジム運営は多くの課題が伴います。しかし、適切な計画を立てることで、自身の練習環境を整えながら、同じ志を持つ仲間とのかけがえのない場所を作り、ビジネスとしても持続させることが可能であると思います。
重要なポイントをおさらいすると:
これからパワーリフティングジムを開業したいと考えている方は、本記事を参考に、自分に合った形のジム運営を目指してみてください。
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